高島市民病院
2023-02-01
業種
医療・福祉・介護
目的・効果
スマートフォン活用 業務自動化・Bot 連携ツール 業務の見える化 電話・メールの削減
主な活用機能
トーク
Bot
お話を伺った方
病院長 武田 佳久さん(左中)  
医師 谷口 晋さん(中)  
看護師 薬師川 ひとみさん(右中)  
事務 八田 さとみさん(左)  
高島市消防本部 警防課 梅村 誠さん(右)
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救急情報連携システムをLINE WORKSとつないで連携を強化。急患の搬送情報を事前に院内スタッフへ一斉共有することで万全の受け入れ体制を整えています。

救急車で搬送される急患に対応する滋賀県の高島市民病院は、LINE WORKSと連携した救急情報連携システムを導入。患者の容体に関する事前情報を確実に受け取り、救急対応にあたる院内の職員に迅速に周知することを可能にしている。救急隊が患者を搬送中に入力した情報が、LINE WORKSのBotによって病院の救急対応チームのグループトークに瞬時に共有される環境を構築。口頭での説明が難しい患者の容体も文章と画像で共有できるようになり、救急対応の質を大きく高めています。

 

本事例のポイント

-電話では聞き取りにくかった救急隊の伝達する患者の容体を正確に把握

-一人ひとり電話で行っていた院内伝達を救急対応チーム全体にタイムリーに一斉共有

-容体の事前情報を入手することで万全な受け入れ準備が可能に

高島市民病院の概要をご紹介ください。

武田病院長:

琵琶湖西岸の高島市にある当院は210床を有する湖西医療圏唯一の総合病院で、滋賀県災害拠点病院や地域がん診療病院、初期緊急被ばく医療機関にも指定されています。周産期医療、予防医療、へき地医療、新型コロナウイルス感染症などにも対応するほか、内科系・外科系の救急医療に365日24時間体制で応じ、高島市で発生する救急搬送の8割以上を受け入れています。隣の大津市からの受け入れ要請に応えることもあり、広大な湖西地方全域の救急医療を担うのも当院の重要な使命です。

これまでどのような課題を抱えていましたか。

武田病院長:

救急搬送の受け入れに際しては、救急隊から患者さんの容体などに関する情報を事前に提供してもらうのですが、搬送中の救急車からの電話の音声は不明瞭になりがちで、電話を受けた救急外来の受付担当者が正確に聞き取ることが難しいといった状況でした。担当者が患者の容体などの情報を医師や看護師で構成される院内の救急対応チームに伝えるのも電話なので、全員に伝達するまでに時間がかります。救急隊からの搬送前情報を迅速かつ正確に入手し、それを院内で速やかに共有する仕組みを整えることが、救急医療を受け入れる病院として大きな課題となっていました。

 

 

八田事務員:

119番通報で救急車が出動すると市の消防本部から受け入れを打診され、承諾すると救急隊からの電話で患者さんに関する情報が伝えられます。その内容は直ちに救急対応チームに伝達しなければならないのですが、担当の医師や看護師がすぐに電話に応答できない状況がよくありました。

 

また、私のような救急隊と救急対応チームの間に入って情報の橋渡しをする救急外来の事務担当者には、医療に関する専門知識がありません。救急隊に伝えられた聞き慣れない専門用語をそのまま伝達するとき、「この言葉で本当に合っているのだろうか?」という不安が常につきまといました。

 

搬送された患者さんに医療を施すには、その患者さんのカルテが用意されていなければなりません。既存の電子カルテを検索するにも新規のカルテを作成するにも、患者さんの氏名や生年月日などの情報が必要ですが、救急隊からの電話ではよく聞き取れないことが多く、氏名の漢字を確かめたりすることも煩雑でした。

 

 

薬師川看護師:

搬送されてくる患者さんの容体を事前に知ることは救急医療において極めて重要ですが、救急外来から電話で聞いた内容をメモして、短時間でチーム全体に周知させるのは困難です。複数の急患受け入れ要請が重なると現場は混乱しがちで、そのメモがどの患者さんのものか判別するのに時間がかかることもありました。

 

 

谷口医師:

社会全体でDXの重要性が叫ばれる中、医療現場におけるこうした困りごともデジタルツールをうまく活用することで解決できないだろうかと以前から思っていました。

 

病院との情報連携に関して救急隊ではどのような課題を感じておられましたか。

高島市消防本部 警防課 梅村参事:

皆さんが指摘されるように、救急車はサイレンを鳴らしながら走行するので、電話はお互いの声が聞き取りづらく、電波もよく途切れます。そもそも複雑な状況を言葉だけで伝えようとすることに無理があり、例えば交通事故で怪我をした患者さんの状態や事故の状況を口頭で説明するといったことに限界を感じていました。

 

課題解決に向けて導入した、救急情報連携システムとLINE WORKSの活用についてお聞かせください。

武田病院長:

当院は総務省が2020年度に実施した「地域課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」に参加し、院内外でのリアルタイムな高精細画像情報の共有による遠隔診療や遠隔技術指導等を実証する取り組みを行いました。その中でTXP Medical社が開発した救急外来情報管理システムNEXT Stage ERを使ったところ、救急対応の業務効率が向上したことから、実証事業の終了後も継続利用しました。しかし、前述した救急隊とのコミュニケーションや、搬送される患者さんの事前情報を院内で共有するうえでの課題は依然として残ったままでした。

 

そこで注目したのが、TXP Medical社がリリースした救急情報連携システムのNSER mobile*です。これは救急隊が従来の電話に替わって患者情報をアプリに入力し、そのデータを病院に送信し情報連携します。(音声認識やカメラで撮影した画像解析といったデータ入力を補助する機能を有し、簡便な入力が可能)入力された患者情報は、院内にある専用パソコンに即時に共有されるとともに、自動で個人情報を加工したテキストデータがAPI連携したLINE WORKSのBotから救急外来の事務担当者、医師、看護師などの所有するスマホに同時に送信されます。折しもコロナ禍で救急隊と病院との情報連携を強化する必要も増していたことから、高島市消防本部と協力し、この仕組みを活用することを決めました。

 

具体的な利用方法とその効果について教えてください。

・患者の容体に関する情報が院内関係者に一斉に届く送信
・院内での口頭による情報伝達が不要に

 

高島市消防本部 警防課 梅村参事:

消防本部からの要請から受け入れ可能な病院が決まると、患者情報を搬送先の病院に共有します。以前ではそのやり取りは電話でしたが、患者さんの情報をデータにして共有するようになってからは、電話で発生しがちだった、言い間違いや聞き間違いが一切なくなりました。データは音声だけではなく画像のOCRによっても入力でき、救急車内のモニターに表示されるバイタルデータや、患者さんの免許証や保険証、お薬手帳などに記載された内容も端末のカメラで撮影するだけでテキストデータにして、病院の専用パソコンに送信できます。

救急隊が所持している端末にインストールされているNSER mobileアプリに、

音声や画像OCRでテキストに変換された患者データが入力される

 

八田事務員:

消防本部からの要請による急患の受け入れが決まると、事務担当から救急対応チームのリーダーにほどなく患者さんが到着することを伝えます。以前は、搬送中の救急隊から患者さんに関する情報が救急外来に電話で伝えられ、事務担当からその内容を救急対応チームに電話で伝達していました。救急隊からは追加情報を伝える電話が2~3回あるのが常で、その都度救急対応チームに伝達しなければなりませんでしたが、NSER mobileを運用するようになってからは、救急隊からの情報がテキストや画像で「外科系」と「内科系」それぞれ必要な関係スタッフが入っているLINE WORKSのグループに瞬時に送信されるので、救急外来がわざわざ伝達する必要がなくなりました

高島市消防本部 警防課 梅村参事:

以前は「心室性期外収縮が1分に5回の割合で出ています」などと口頭で行っていた説明も、今は救急車内のモニターに表示される心電図データの写真を撮ってもらえば確実に伝わります。同様に患者さんの怪我の様子なども写真で把握できるようになりました

NSER mobile から送信した画像をLINE WORKSに共有できるようになったことで、

情報の伝達効率が飛躍的に高まった

 

高島市消防本部 警防課 梅村参事:

情報入力に手間取る場合もありますが、口頭での説明が短縮されたり、不要になった伝達項目も多いので、病院への到着が遅くなるといった影響はまったく出ていません。大半の搬送にNSER mobileを使っていますが、患者さんの容体が重篤で情報を入力する余裕がないときは、病院との合意のもとで従来どおり電話でやり取りするというように、状況に応じて臨機応変に運用しています。

 

 

谷口医師:

搬送中の患者さんの血圧や心電図などのバイタル情報が、LINE WORKSに確かなテキストデータとして届くようになったことで、私たちも的確な処置をするための万全な準備ができるようになりました。他の患者さんの診療中においても、救急隊から電話がかかってくることはよくあったので、搬送される患者状態が電話ではなくテキストデータで届くことで、今診察している患者さんに集中することができて、診察を遮ることがなくなりました。

 

薬師川看護師:

電話連絡だったころは、複数の急患が重なって慌ただしくなると、どうしても救急外来からの電話に出られないことがありましたが、今は救急隊が発信した情報が確実にLINE WORKSに届くので、個々の患者さんの状況に応じた受け入れ準備をしっかり整えられるようになりました。

 

情報はいつでもトークで確認できるので、忙しいなかどの情報がどの患者さんのものか探すともなくなり、救急対応チーム全体が以前より落ち着いて患者さんを受け入れられるようになっています。

 

武田病院長:

搬送される患者さんの事前情報を迅速かつ確実に共有することで、救急対応に携わる全職員がベクトルをしっかり合わせて対処できるようになったことを実感しています。

こうした仕組みの活用を、今後どのように発展させたいとお考えですか。

高島市消防本部 警防課 梅村参事:

高島市消防本部では、救急搬送全体の約2割を高島市民病院以外の別の病院に受け入れてもらっていますが、今後はそれらの病院でも今回のような仕組みと連携したNSER mobileが運用されるようになればと思っています。

 

谷口医師:

当院は大津市からの急患を受け入れることもあり、その場合は患者さんの事前情報が電話でしか得られないので、将来的にはこの仕組みがより広域で利用できるようになることを望んでいます。

 

武田病院長:

改正労働基準法に基づき、2024年4月以降、原則として医師の時間外労働が年間960時間までに制限されます。それに合わせて当院も「医師の働き方改革」を推進しなければなりません。人手不足の解消が難しいとなると、個々の医師の業務を効率化する必要があり、そのためにはNSER mobileのようなツールを活用することが欠かせないと思います。

 

現在は救急隊から発信された情報の共有にのみ用いていますが、LINE WORKSは職員全体のコミュニケーションを円滑にするのにも有用なはずなので、今後は院内の連絡ツールとしての活用も検討するつもりです。

 

【お話を伺った方】

武田 佳久さん

外科科長を経て2022年4月、病院長に就任。

 

谷口 晋さん

循環器内科副科長 循環器専門医でありながら救急診療等ジェネラルに診療を行う。

 

薬師川 ひとみさん

外来診療部門で外来診療部看護師長補佐を務める。

 

八田 さとみさん

救急センター受付事務を担当。

 

梅村 誠さん

高島市消防本部 警防課 参事 救急救命士。

 

※掲載している内容、所属やお役職は取材を実施した2022年9月当時のものです。

 

* NSER mobile…TXP Medical社が開発した救急情報連携システム。音声コマンドや画像OCRで患者情報入力できるモバイルアプリを消防隊に提供し、救急患者の情報をクラウドにて情報連携することで、救急隊と病院間の情報連携をスムーズにする。

https://txpmedical.jp/service/nser-mobile/